仕事用鞄

 たまには,出張に行かずとも,自宅の母艦から更新するのも良い.一番使い慣れたキーボードで打ち込むのは,やはり気持ちが良い.

 カスタムメイド(オーダーメイド)ネタで何件か書いてきた.確か,スーツで2件,靴で2件書いただろうか.

 今回は,仕事用の鞄だ.仕事用の鞄と言っても,毎日の通勤に使う奴じゃなく,海外出張に使う機内持ち込み用の鞄だ.コイツをまた作った.毎日の通勤用のは,弘前の某馬具店でカスタムメイドしたのが,まだ日本で寝ている.もったいない話だが.

 以前,香港で鞄を作ったことは,しばらく前の記事で書いた.コリゴリしたことも書いた.所詮は中国人.こちらが何をしたいのかを理解せず,「言われたからやりました」的なやっつけ仕事をやってくれて,ウンザリした.図面にもない頼みもしないポケットを勝手に付けてくれ,「ついでにこのポケットをサービスで付けておいたよ.便利だろう?」と,ドヤ顔をされた.ちなみにそのポケットは,外に大きく出っ張っており,鞄の重心は崩れるわ,持ち歩くときに邪魔になるわ,ろくなモンではなかった.ああ,この店は出来上がりの見栄えだけを考えていて,実際どう使われるのかなんてまるで考えてないんだな,と思った.はっきり言って金のムダだった.ここで店の名前まで書くつもりはないが,ブランドバッグのコピーで有名な九龍のとある店だ.ガイドブックにも載っている.あれ以来,香港で何かを作ろうとは全く思わなくなった.

 その,気に入らない鞄だが,そうは言ってもそれなりの金を払って作ったモノだから,もったいないので使い続けていた.でないと,カミさんがいい顔をしない.(笑) 多分,この気に入らない鞄と一緒に地球を何回かは回ったと思う.普通,それだけ使えばだんだん愛着が湧いてくるモノだが,コイツだけは違った.

 持ち手の位置が重心からずれていたり,持ち手が正確に指定通りの構造ではなかったり,さらに強度が足りなくてだんだん変形してきたり,ジッパーがやたらと角が立っていてスーツの生地にひっかき傷を作ってくれたり,ずいぶん難儀して使っているのを見かねたカミさんから,やっと次の鞄の作成許可が下りた.なんだかんだでぶつくさ言いながら,その出来損ないの鞄を3年使い続けた.

 そこで,タイ人職人の出番だ.タイは,革製品が安い.合皮より,本革が安かったりする.つまり,革製品を作る職人がそこら辺にゴロゴロしているということだろう.母数が大きければ,突出した能力を持つ人間が出やすい・・・というリクツを脳内ででっち上げ,カミさんを説得したというのもある.

 以前,靴のカスタムメイドをしたときに,O.P.プレイスの中に他に何軒か革製品の店があるのを見ていた.ネットで調べたところ,そのウチの一軒が,それなりに高い評価を受けていることが分かった.記憶をたどると,確かにかなりガッシリとした実用的な鞄がいくつか置いてあったように思う.ということで,その店を訪ねた.

 (ちなみに,靴を作ったときに紹介した,同O.P.プレイスの「Bangkok Leather」という名の店だが,オリエンタル・ホテルのマネージャのお墨付きだ.彼曰く,「靴を作るなら,この店が最高だよ.保証する.」と.もちろんなにがしかのリップサービスは入っているとは思うが,確かにラフな寸法取りの割には,非常に足に合った靴を作る.少々注意は必要だが)

 注文しようとしたところで,店の女将さんに聞かれた.アンタ,その鞄いくつ作るの?と.もちろん,一つだけだ.すると,ウチはカスタムメイドは10個からしか注文を受けないの,ゴメンね,ということだった.「その代わり,腕の良い職人を抱えている店を紹介してあげる.値段はちょっと高めだけれど,品質は絶対保証するわ.そこなら一個から作ってくれるから.」ということで名刺を渡された.なんと,リバーシティの「Siam Leather Goods」だった.上記のBangkok Leatherと前後して,靴を作るのに世話になった店だ.

 車に乗り,リバーシティに急ぐ.着いて驚く.以前は川沿いの,少々目立たない場所にあったはずの店舗が,入り口にすぐ近いところに移動している.それはさておき,早速交渉に入る.

 香港で作ったときもそうだったのだが,立体の投影図,三面図,分解図,こだわりのある場所のそれぞれの拡大図を描いていた.A4で4枚になった.CADを使ったわけではなく,所詮は手書きの図面だが,いくら口頭で説明しても絶対に分かってもらえない所があり,それを理解してもらうのには,やはり図面が絶対に必要だ.特に,鞄の使い心地の命である,持ち手の構造と位置については,図面がなければ話は通らない.

 前にも書いたが,この店は英語が完璧に通じる.インド系のオヤジが一人,やはりインド系と思われるその奥さんとおぼしき女将さんが一人,中華系と思われるオヤジが一人いる.いずれもかなり巧く英語を操り,こだわりを説明するのも非常に楽だ.

 とにかく厚手でしなやかな革を使って強度と耐久性を上げること(COACHのショルダーバッグを例とした),持ち手の位置はコンピュータの重量を考えてごく僅かに中心線からずらすこと(持ち手の構造の説明にはTUMIの鞄を例とした),持ち手の延長は鞄の底を通過させて,持ったときの安定性を向上させること,ポケットは新聞や雑誌を差し込む大きめのもの一つだけで,余計なものは作らないこと,内部は全て黒のライニングを施し,継ぎ目は簡易的な防水処理を行うこと,本体の色はつや消しの漆黒で,表面に出る全ての縫製は赤い糸で行うこと,ジッパー等の金具は全てブラスのゴールドにすること(俺はクロムに金属アレルギーがある),等々.

 全てを説明して,理解してもらえたとこちらが納得するのに1時間ほどかかっただろうか.その間オヤジは,別にA4の紙にメモをとり続け,重要ポイントを15ヶ所ほど書き留め(タイ語なので,何を書いているのかイマイチ分からなかったが),更に俺の持っていった図面のコピーを取って職人用のコピーを作り,そこにもなんだかんだとポイントを書き込んでいった.説明している間から,香港の戯けた店とは受ける印象が違った.こちらの要求に対して,どうすればそれを達成できるか非常に具体的で的確な答えが返ってきた.要求を,確かに理解してくれている,と思った.先ほどの店の女将が太鼓判を押すように,この店なら確かに納得できるモノを作ってくれるだろうと確信した.だいたいの大きさと,使われ方の参考にするということで,現行の香港鞄をサンプルとして置いて帰った.とりあえず,来週いきなりどこかに出張に出かけそうな仕事は無い筈だった.

 確かにそれなりの高額になったが,1時間の間ずっと隣に座ってオヤジとのやりとりを聞いていたカミさんの顔色をうかがうと,半ば呆れつつも納得した顔をしていた.金を支払い,店を出る.2週間で納品する,とのことだった.車の中でカミさんが言った.

「そりゃアンタ,まともな職人にあれだけの注文を付ければ,あれだけの額にはなるわよ.むしろ安いくらいかも知れない.」と.

 2週間後,出来上がりの日から数日経って受け取りに行った.出来上がりを見て,見た瞬間に納得した.要求以上のモノが出来ていた.ガキの悪戯用のナイフ如きでは切り裂けないほどの頑丈さと,その割には内容物に合わせてそれなりに形を変えるしなやかさ.ほぼ全て革一枚で出来ておりどこにも芯など入っていないくせに,空のまま自立し安定する強度.注文通りつや消しの漆黒に,要求を完全に理解した証の目に焼き付くような鮮やかな深紅のステッチが栄える.金のブラスのジッパーはYKK製だった.(日本にいると気にもせずに使うYKKのジッパーだが,あの高品質ははっきり言って異常だ)

 受け取った後のオヤジの一言が全てを物語っていた.

 「この鞄は,壊れない.だがもし,この鞄を使っていて何かの不具合があったら,いつでも持ってこい.どんな状態でも直してやる.アンタがこの鞄を使い続ける限り,生涯保証してやる.大丈夫だ.アンタが死んでも,この鞄は壊れてないよ.」

 そういえば,弘前の馬具店で同じような台詞を聞いたような気がした.

 ちなみにオヤジに聞いたところでは,O.P.プレイスで門前払いを食らわされた店は,従姉妹がやっている店なのだそうだった.身内の店を紹介された,というわけだ.まぁ,前回靴を作りに訪れたときに,この店の誠意的な態度はよく分かった.だから安心して任せられた,というのもある.

 店を出る前にオヤジに言われた.

「次は靴を作りに来な.ウチの店は靴も得意だ.」

「知っている.2年ほど前に一足作ったことがある.今も履いている.」

「履き心地はどうだ?」

「悪くない.ただ,踵のゴム底の接着部分が少しはがれかけているのと,長く履いてサイズが少し緩めになってきたみたいだが.」

「なんだって?次に来るときはその靴を持ってきてくれ.再調整と修理をする.料金は要らない.作ったウチの店の責任で修理する.」

2年前,半分偶然で飛び込んだ店だったが,どうやら当たりを引いていたようだった.

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上海

 出張更新だ・・・というのを怠け更新の言い訳にしているようだが.(笑)

 今,上海にいる.上海の冬は,例えば日本の東北の冬と比べるとかなり生ぬるいものだが,それでも常夏の国であるタイからやってくると,十分に冬している.一杯引っかけたあとで,ホテルの近所のファミリーマートまで水とコーラを買いに出たとき,ホテルのフロントドアを出た瞬間の,あの頬をさっと撫でて気管を下り降りていく冷たい風が,十分に日本への郷愁をそそる.そう,冬ってのは,こんな感じだったよな,と,思わず笑みを浮かべて,稲刈りの終わった乾いた田んぼで寒風の中凧揚げをした事や,葉っぱの落ちた柿の木になる熟柿と同時に漂ってくる藁を焼く煙の匂いや,冬の朝に響き渡るヒヨドリの鳴き声を思い出す.日本の記憶を色々と思い出すのに十分なだけの寒さを有している.

 前回,上海に来たのは確か6年前の冬だった.とある顧客向けの製品が上海工場でトラブルを起こした.俺は当時この手の技術的トラブルを解決する火消しの親分をやっていたので,休みの日の昼間にいきなり研究所長直々に電話が入ってきて,翌月曜日からいきなり上海に飛ばされた.5日以内に全て解決して帰ってこい,という指示だった.ぶつぶつ文句を言いながら,インフルエンザが治りきっていないクラクラする頭を抱えながら,サーモグラフィーにおびえつつ,空港の入管を通過したのを覚えている.そう,SARSがアジア全域で流行っている時だった.

 中国支社の社長が,初日に歓待の意味を込めて日本人向けのカラオケに連れて行ってくれた以外は,何の色気もない,どころか人んちの工場で連日連夜夜中過ぎまでぶっ通しで働き,なぜか上海工場代表として全世界のマネージャが顔を出す電話会議に出さされて状況報告をやらされ,金曜の昼に改善サンプルを作り出して,その夜には日本の品質保証課に自分で持ち込んで検査,なんていうキョーレツなスケジュールを勝手に決められ,どうにかこうにか何とか火消しをして日本に帰った記憶がある.まぁ,今から思えば良い思い出だが.そういえばあのときの部長,解決するまで日本に帰ってくるな,だが5日以内に帰ってこい,来週のスケジュールは決まってるんだ,とかムチャクチャを言いやがった記憶がある.

 その上海に,また仕事できている.今回は気楽に,工場見学をするタイ人の引率できているだけだが.

 唐突だが,おれは井上陽水が好きだ.あのシュールな歌詞と,それに見合わない(いや,見合っているのか?)メロディーが好きだ.金曜の夜に一人自己陶酔しながら,自室の窓から夜景を眺めながら明かりを落とした部屋の中でロックグラスを傾けるのにちょうどいい陽水の曲が好きだ.ナルシシズムと笑いたければ笑え.だが一人勝手に酔ってるのくらい,放っておいてくれ.

 陽水の昔の曲に,「なぜか上海」というのがある.タイトルだけ見ると,何を歌っているのかさっぱり分からないシュールな曲に思える(笑).いや実際,写実的ながらシュールな,かなりぶっ飛んだ歌詞の曲だとは思うが.多分,戦前の,誰も彼もが憧れた極東一の国際都市上海を歌ったものだろうというのは,何となく分かる.

 上海に来ると,その歌を思い出す.街中を歩きながらつい口ずさむ.横断歩道の青信号が点滅し,雨の中減っていく秒数をカウントしながら歩くその時に,唐突にふと頭の中にわき上がってくる.

 昔も国際都市上海だった.今も,それは変わりないようだ.中国らしいダサさをあちこちに残しながらも,それでも多分,他の中国の都市とは違った雰囲気を常にたたえている.

 この街が好きなワケじゃない.どちらかというと,嫌いな部類に入る.それは,俺が中国を大嫌いだという事に関連があるとは思うが,それでも上海というのはなぜか憎みきれない,そして妙に気になる街であるのは確かだ.

 連れてきたタイ人4人と,なぜかホテルの中の日本食屋で刺身を食いながら,ふと気付いた事がある.多分,上海に住んでいる上海人連中もそうなのじゃないだろうか.(上海の連中は,半ば自嘲気味に,そしてかなりの誇りを持って,自分たちを「上海人」と呼ぶ事が多い).あれだけ反日デモや,反日的な書き込みをしていながら,ここの街の連中はどうも,日本を憎みきっていない雰囲気がある.

 何を書いているのか分からなくなってきた.どうやら酔っているらしい.ムカツクんだけれど,なんか気になる,という俺の頭の中と,上海人の日本に対する態度,ということで終わらせておこう.

 そうそう.街中を歩いていて,やたらと見かけるファミリーマートと,そのファミリーマートで大量に見かける日本製品は,確かに面白い.そして,タイのファミリーマートでは聞く事が出来ない,入店したときのあのメロディーが上海では聴ける.これもまた妙に郷愁を誘うということを最後に書いておこう.

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Amari Vogue Resort アマリ・ヴォーグ・リゾート

またしばらく空けてしまった.久々に,タイ国内のホテルについて書こう.
アマリという名のホテルグループを知っているだろうか?知っていれば,アナタは少なくとも多少はタイに関する知識があるということになる.もしかしたら,タイに旅行に来たことがあるのかも知れないし,もうすぐタイに行く予定なのでガイドブックで猛勉強中なのかも知れない.いずれにしてもこのホテルグループ,多少はタイに関する知識がないと知られることもないローカルなホテルグループなのだが,その実なかなか上質なサービスを提供してくれる.その上サービスや設備の内容の割に安価な価格設定がしてある,お勧めのホテルグループだ.
昨年2度ほどクラビ周辺に遊びに行き,そのうちの一回,このホテルを使った.結論から言うと,欧米人向けの正しいリゾートホテルだった.非常に快適な時間を過ごすことができた.
【ホテル】 Amari Vogue Resort (アマリ・ヴォーグ・リゾート)
【ホテル概要】 クラビ空港から車で約4~50分の所にある.クラビ市街からも十分に離れているため,一般の観光客がふらふらと訪れる場所ではない.即ち,静かで落ち着いた滞在を楽しむことができる.逆を言えば,クラビ市街でショッピングやナイトライフを楽しむ事が目的なら,このホテルの選択はあり得ない・・・のだが,クラビのような田舎町でナイトライフもナニもあったモンじゃない.そんなモノを楽しみたいのなら,プーケットに行った方がいい.
 ホテルは海に面して,山の斜面に建つ.斜面を巧く利用してあり,一番標高が高く,道路に面している部分にロビーがある.そこから海に向けて下っていく敷地の中に,ビルディング集合型の一般客室と,ヴィラ,コテージが建つ.山から海に向けてウナギの寝床のような細長い敷地を持っているのだが,これを巧く使って,細長い敷地の中央に噴水やプールがしつらえてあり,高低差を利用して水を流している.敷地の真ん中を上から下まで川が流れているような作りになっている.この川の両脇に歩道があり,全ての部屋と施設はその歩道に面している.
 敷地の一番てっぺんがロビーとレセプションで,一段下りると「Lotus」という多国籍料理のレストランがある.わずかながらでもエアコンが効くレストランはここだけだ.ヴィラではないゲストルーム(鉄筋コンクリート4階建て)は全てこのレストランとレセプション両脇辺りにある.
 そのまま川の流れに沿って降りていくと,敷地のだいたい真ん中あたりにスパがある.ごく一般的なホテルスパだった.他のホテルスパに比べて特に高くもなく(かといって安いわけでもないが),十分にくつろぐことが出来る作りになっていた.
 スパの前に東屋と,ジャグジープールがある.ジャグジープールは少し空中に飛び出すような作りになっており見晴らしが良く,プールの中にしつらえられたベッドに寝そべって,海を眺めることが出来るようになっている.ジャグジープールの下(1F)がプールサイドバーだ.ジャグジーを楽しみ,少し飽きてきたら東屋の屋根の下に避難して,プールサイドバーから飲み物を取り寄せて友人と談笑する,などという楽しみ方も出来る.
 プールサイドバーの脇を抜けて更に下に降りると細長い形のプールが続く.泳ぐことを目的とするよりも,プールサイドでの日光浴に飽きたら飛び込むプール,というイメージだ.プールの幅は5m程度で,長さは20m程度.このプールの中にも所々にベンチがしつらえてあり,その背もたれ部分にジャグジーのようなジェット噴射口がある.
 プールサイドを抜ける歩道は,そのままホテルの中心部を貫く主要道となっている.その所々にスペースを取ってあって,プール向きに日光浴用のビーチベッドが置いてある.日光浴をしていると,すぐ後ろを人が通るので,神経質な者はくつろげないかも知れない.実際の所は,お互いに邪魔にならないように,変に詮索しないようにマナーを守って通行しているのでそれほど気にすることはないのだが.欧米人はこういう所でプライバシーを尊重するスマートなやり方を良く知っている.
 そのままプール脇を下っていくと,「Bellini」というイタリアンレストランに出る.全てがオープンスペースになっており,またビーチに面している.プール下にちょっとした芝生の広場があり,しばしばシーフードディナーブッフェなどが企画されているようだ.
 レストランを通り過ぎると,低い石垣の階段を抜けてビーチに出ることが出来る.
 「デラックス・ルーム」という名の付く部屋は,それがスタンダードだ.鉄筋コンクリートビルディング集合型の,いわゆるホテルの作りになっている.フロントロビーの両脇から,2翼のビルが敷地内両脇に広がる.
 「ロイヤル・デラックス・ルーム」というのは,4戸一棟のコテージになっている.お隣さんと仲良くなりたければなれるし,干渉されたくなければそのようにも出来る絶妙な作りになっている.今回,俺はこの部屋に泊まった.
 レストランは2つ.そしてバーが1つ(Webサイトには,バーが二つあるように記述してあるが,実際は1つのバーカウンターと座る場所が2ヶ所,という作りだ).
 
【立地・特徴】 ホテル前のビーチは,遊泳可能だ.微妙な書き方をしたが.どこまでも続く目に焼き付くような白い砂浜に緑の椰子の葉と椰子の木陰,というビーチを想像すると,少し違ったものになる.椰子の木は余り無く,ふつうの広葉樹が中心の森が,海のすぐそばまで迫っている.砂浜は,それほど白くない.砂浜にたくさんの落ち葉と小枝が漂着している.汚いわけではないのだが,南国リゾートの写真集で見かけるようなビーチを想像していると,少々がっかりするかも知れない.
 がっかりするような書き方をしたが,実際に泳いでみると,水は十分に透明度が高く,綺麗だ.ただし,相当な遠浅であり,大潮の干潮時には砂浜が沖に向けて100m以上も伸びることになる.満潮時に足が届かなくなって溺れる心配はないが,干潮時には海に入るまでかなりの距離を歩かねばならない.これはこのホテルだけではなく,アンダマン海に面したビーチリゾート全般に言えることだ.
 このホテルにおける海の存在意味は,遊泳するためではなく,浜辺で日光浴を楽しむためと,部屋から眺めるため,だと感じた.実際部屋の窓から,遠く遙か沖に浮かぶ,クラビ地方独特の形状をした島がいくつも連なっているのを見ることが出来る.その向こうの水平線から積乱雲が沸き立ち,海の青と雲の白がコントラストをなしている.その間に浮かぶ島の手前を,ロングテールボートがゆっくりと横切っていく.プールサイドのビーチチェアに寝ころんで,冷たく冷えたピナコラーダでも飲みながら,ホテルの敷地の中にはふんだんに植えられた椰子の木の葉を風がなでていく音とともに,その美しい風景を楽しむためのものだと思った.
 基本的にこのホテルでの時間の過ごし方は,プールサイドでのんびりと寝て過ごすことだろう.音楽を聴きながら本を読んだり,木陰でヨガの瞑想をしたり,とにかく日に焼けながら昼寝をしたり,だいたいそんなところだ.そんなとき,プールサイドバーが気を利かせて,1~2時間に一度,冷たく冷えた氷水を持ってきてくれる.午前10時と,午後3時には,フルーツを中心とした簡単なデザートが配られる.夕方になって部屋に帰れば,フルーツやケーキを中心としたおやつがテーブルの上に乗っている.ちょっとしたことなのだが,それだけで案外贅沢な気分になれるサービスだ.
 海に面したリゾートであるので,西洋人たちの大好きな「アクティビティ」もそれなりに充実している.今回は周囲数十キロ以内にある珍しい形の島を巡る「アイランド・ホッピング」ツアーを申し込んだ.ツアーとはいえ,オレとカミさんの二人でロングテールボート(船頭さん付き)を一艘借り切る.金さえ払えば,少々のワガママは聞いてくれる.島巡りをしている間に数カ所,シュノーケリングに適した場所で止まってもらって潜るくらいのことは出来るし,行きたい島があれば先にリクエストしておけば,大概のことは聞いてくれるだろう.もちろん,それに見合った金は要求されるが. 
 
【食事】 先に少し書いたが,レストランは2ヶ所ある.多国籍料理を出す「Lotus」と,イタリアンの「Bellini」だ.Lotusの方はフロントロビーのすぐ下,Belliniの方はビーチの脇にある.いずれも十分に満足できる味の料理が出てくる.
 ホテルの外で食事をしようと思ったら,近隣の他のホテルのレストランに行くか,クラビ市街まで出かけることになる.近隣のホテルはともかく,クラビ市街まではそれなりに距離があるし,それほどの超有名店があるわけでもない.そもそも前もってホテルに連絡し,タクシーかホテルの車を出してもらわねばならない.余り現実的な選択とは言えないだろう.
 朝食は基本的にLotusで摂ることになる.タイ料理,中華,西洋風のごちゃ混ぜになったビュッフェ形式のよくある朝食だ.スタッフは周囲の状況に十分に目を行き渡らせており,コーヒーや紅茶が無くなればすぐにお代わりを持ってきてくれる.
 昼食はこれらの2つのレストランで摂るか,プールサイドのバーで軽食を摂ることになるだろう.俺としては,プールサイドバーで,一杯引っかけながらのんびりと軽食をつまむ事をオススメする.照りつける日差しを少しさけてバー前のソファベッドに座り,海からのそよ風を火照った肌に感じながらプールの水音をBGMにして,さざ波が光るプールの両脇で風にそよぐ椰子の木と,それらに囲まれながら遠景に青い海と沖に浮かぶ独特な形の島を眺める.緑に覆われた島の向こう側から真っ白い積乱雲が沸き立ち,穏やかに波立つ海面をロングテールボートが独特のエンジン音を立ててゆっくりと横切る.何もしない時間.時折思い出したように皿の上のサンドイッチをつまみ,ピナコラーダを飲む.ラムとパイナップルとココナツの甘い香りが,嫌でも南国リゾート気分を盛り上げてくれる.
 夕食は,Lotus,Belliniどちらでも摂ることが出来る.頻繁に(大概毎日,どちらかのレストランで)何らかのイベントを行っているのでチェックしておいた方がいい.俺が滞在している間に,「タイ料理づくしの夕食(@Lotus)」「海鮮ビュッフェ(@Bellini)」「海鮮イタリアンづくし(@Bellini)」などのイベントを行っていた.
 Belliniの前は芝生の広場となっているので,昼間日光浴用に置かれていたビーチベッドが夕方には片づけられ,イスとテーブルに代わる.白いテーブルクロスがかけられ,各テーブルにキャンドルが置かれる.西洋人たちの大好きな,ビーチサイドでのオープンエアーのムーディーなディナーとかいうやつが楽しめる.
 食事はどのレストランでも十分に旨い.選択肢が少ない分,ウンザリしないように配慮されているのだろうと思う.サービスのスピードも申し分ないし,十分な数のスタッフも常に客に目を配っている.
 
【注意点】 特にこれといって注意点はないが,ホテルが完全に人里離れた場所にあるので,何かを忘れたときなど,買いそろえるのが少々不便かも知れない.一番近いセブンイレブンは,約10km彼方だ.もちろん,ホテルの中には売店があり,虫さされ薬,日焼け止め,水着,帽子などの一通りの物は売っているのだが,ブランドなどにこだわりがある物などは思い通りの物は手に入らないだろう.忘れ物には気を付けた方がいい.
 ちなみに,一番近い街はクラビの街となるが,この街も人口数万人程度の小さな街だ.手に入る物には限界がある.
 当たり前のことだが,ホテル内で日本語は通じない.日本人スタッフも居ないし,日本語を話せるスタッフもいない.英語かタイ語が必須となる.
 クラビの街に出るには,ホテルの仕立てるシャトルバスに乗るか,タクシーを手配してもらうしかない.例えばクラビ一日観光(寺などの観光名所が何カ所かある)などを計画した場合は,タクシーを一台借り切ることになる.ホテルのフロントデスクかコンシェルジュに相談するといい.滞在中のスケジュールがもうちゃんと決まっているのなら,予約の時点で話を成立させておく方が,滞在中の時間の無駄が省けるだろう.
 上にも書いたが,基本的に全ての食事,飲み物はホテル内で都合を付けることになる.ホテルの外に食事に出ようとすると,近隣のホテルのレストランに行くか,5kmほど離れたところにあるソフィテルとシェラトンホテルの近くにある小さな集落の中にあるレストランを利用するか,あとはクラビの街まで出るしかない.
 コレは,ビールやコーラなどの飲み物にしても同じだ.ビールが飲みたくなったら,ちょっとソコのコンビニまで,という訳にはいかない.いや,もっと楽なのだが.ビールが飲みたくなったら,電話を取り上げてビーチサイドバーに電話一本,冷えたビールとコップが部屋まで届く.もちろん,コンビニで買うよりも数倍の値段を取られるが,これは割り切るしかない.そもそも,オカネモチが余暇を楽しむリゾートホテルに泊まっているのだ.金を節約するために飲み物はコンビニで,なんてちまちました旅行をするためのホテルではない.リゾートライフを楽しむのだ,とキッチリ割り切ってそのスタイルに従う方がいい.実際,空港の売店で大量の缶ビールを買い込んで持ち込んでいる日本人夫婦を見かけたが・・・余り格好の良いものではない.

 先にも書いたように,このホテルはクラビ空港からも,クラビ市街からも遠く離れている.ホテルに行くには絶対に車が必要となる.空港までの行き帰りは,予約時に同時に確保しておいた方がよいだろう.乗り合いのバンか,乗り合いにならないセダンをホテルが仕立ててくれる.空港でタクシーを手配しようとして変にトラブる事を考えると,ホテル予約と同時にホテルで手配しておいた方が絶対にオススメだ.
 
【所感】 こぢんまりした割に,いや,こぢんまりしているからこそ,か,サービスの行き届いたホテルだった.タイでホテルに泊まっていると,大概一度か二度は,ホテルスタッフの対応の遅さや悪さにいらいらすることがあるものだが,ここのホテルでそれを感じたことは無いように思う.
 実はこの時分,アマリホテルグループに勤めている日本人スタッフと少し仲良くなり,そのツテで予約をお願いしたため,もしかしたら少々特別扱いされた面もあったかも知れない.だがもしそうだったとしても,それを差し引いたとしてもやはり十分に納得のいくサービスを受けられたと思うし,こぢんまりしながらも必要十分な設備の整ったリゾートホテルだと思った.
 メリディアンやシックスセンスのような,派手だったり巨大だったりする総合リゾートホテルではないが,少数の良くできたスタッフが運営する気持ちの良いホテル,という印象を受けた.

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チェンマイ旅行(3)

 久々にチェンマイに行った.冬が近づけば,いかに南国タイであろうと,山間部に位置するチェンマイであれば涼しいだろうと思ってこの時期を選んだのだが,甘かった.山間部では冬になれば気温の差が激しくなり,確かに夜は日本人でさえ肌寒いくらい涼しくなるのだが,日中は急激に気温が上昇し,十分に暑かった.相変わらず,汗だくになって寺巡りをした.
 前回のチェンマイ旅行をネタに書いた記事が思いの外好評なので,続きを書こう.引き続きチェンマイ旅行の小技ネタの記事だ.
 ただし,以下を実行するにはいくつかの条件がある.
 (i)カタコトでも良いのでタイ語が喋れる事.相手の言葉を使って話しかけるのは,親しくなる最短かつ最善の方法.日常会話にさえ困るレベルでも構わない.要はほんの少しでもタイ語が喋れて,そしてタイ語で喋ろうとする姿勢を見せる事.そもそも最低限そこの国の言葉で「こんにちは」と「ありがとう」くらい覚えておくのが礼儀というものだろう.
 (ii)英語は喋れる事.海外に出るなら英語くらいは喋れないと何をするにも困る.まぁ偉そうに言っている俺も,英語くらい「しか」喋れないのだが.
 (iii)妙な猜疑心を持たない事.この手の猜疑心は,日本語で話していても思いの外相手に伝わってしまうものだ.やれ「遠回りしてる」だの,「ボられるんじゃないか」だの,「勝手にどこかに連れて行かれる」だの,やたらと疑いまくらない事.人から疑われりゃ,当然疑われる側も気分が悪い.逆に「このヤローボッたくってやろうか」なんて気を起こさせる原因にもなりかねない.相手を信用した方が良い.タイ人は基本的に良い奴が多い.(もちろん,最低限の警戒心まで解くのはマズイが.どこの国にも悪人はいる)
 (iv)とにかく運ちゃんと仲良くなる事.サービスが全然変わってくる.トゥクトゥクやサムローにはゆるい縄張りがあり,大体いつも決まった場所で客待ちをしている.ソンテウも客待ち休憩をする場合はその傾向がある.滞在中,毎回同じトゥクトゥクを使い続ければ,嫌でも仲良くなるし,運ちゃんの方もこちらの顔を覚えて色々便宜を図ってくれる.もっとも,親しい友人にはとことんお節介好きなタイ人の事,まれに煩いぐらいに色々言われるが・・・その辺は割り切り方だろう.
 (v)細かい事に目くじら立てない事.タイで起こるあらゆる事がそうだが.たかだか20THB余計に請求されたくらいでガタガタ騒がない事.たったの50JPYだ.少々道を間違えたくらいで,不機嫌にならない事.道は続いている.1ブロック行き過ぎて曲がったところで,目的地には着ける.何ならUターンさせたっていい.細かい事に煩い奴は,基本的に嫌われる.時間がかかる?ここをどこだと思っている?タイだ.日本じゃない.最初から十分な時間的余裕を考慮して行動しない方が悪い.
 さて,始めようか.
 トゥクトゥク活用法: 前回の記事でもトゥクトゥクの利便性について述べた.運ちゃんが英語に堪能である事が多く意思疎通が楽である事,大概の運ちゃんが地図を読める事,色々と小回りが効く事,など.更に言えば,運ちゃんに地図(もちろん英語のもの.タイ語併記である事が望ましい)を見せ,目的地の店名などを告げ,その住所を告げれば,余程マニアックな場所でない限りは大概店の前に横付けしてくれる.例えマニアックな場所でも,地図と住所を頼りに何とかしてくれる.メジャーなレストランなど,名前を言っただけで店の前に横付けになる.これは大変頼もしいし,ありがたい.下手に住所を頼りに歩き回ったりすると,地元の商店のオバサンなどに道を聞く事になる.忘れてはならない.タイ人は地図が読めない.こう言ってしまってはその店員のオバサンには悪いが,近所の有名な寺とかで無い限りは,その辺の店員の教える地図情報など全く信用しない方が身のためだ.実際何度も全然違う方向を教えられ,エライ目に遭った.
 トゥクトゥク活用法②: 即席周遊観光のアレンジ.止めたトゥクトゥクの運ちゃんに行きたいところを全部告げる.適当に順番をアレンジして(時間的,距離的に有利な経路で)くれて,目的の場所を全部回ってくれる.この時,運ちゃんは一方通行などの全ての情報を総合的に考慮してルートを決定しているので,特に順番にこだわりがないのであれば,ルートに関して妙な口出しをする必要はない.全てプロに任せればいい.目的地で観光している間は運ちゃんは車内で寝ているか,人によってはつたない英語ながら観光ガイドを買って出てくれる.つたない英語と素人ガイドとバカにする事なかれ.地元の人間は色々な事を知っているものだ.ガイドブックには載っていない情報や,地元の人々がどのようにしているかなど,興味深い話が沢山聞ける.時によっては寺の坊さんや,店の人間に口を利いてくれたりして,普通なら入れない場所に案内してもらえたり,メニューブックに載っていない所謂「知る人ぞ知る裏メニュー」なんてのが出てきたりもする.
 気になるその場合の料金だが・・・「時価」と言うしかない.実際,しばらく乗せてもらって走り回っていると,運ちゃんと仲良くなってしまい,料金を請求する運ちゃん側も「アンタとは仲良くなったから,幾らでも良いよ」なんて事を言い出すからだ.ちなみに俺の場合は,走行距離や何をしてくれたかという事ともバランスさせながら,大体2~300THB/h位で支払っている.高いと取るか,安いととるか,人それぞれだろう.もちろん,きっちり料金を言ってくる運ちゃんが殆どだが,それにしても仲良くなれば随分値段が下がる.
 もっとも,こちらも日本人.余りシビアな支払いをする気にもなれず,「色々お世話になったから・・・」なんて,余分に金を渡したりして,金額的には多少高くついたりもするのだが.そこは,色々と便宜を図って貰ったこちらもありがたい思いをしたし,多めにお金をもらえた運ちゃんも喜んでるし,これでいいのだ,という話だ.
 「地球の歩き方」などには「トゥクトゥクに乗る際には,必ず先に料金交渉をしてから乗ること」などと書いてある.俺のやり方はこのまるで逆になる.乗る前に料金交渉はあえて行わない.乗っている間に運ちゃんと仲良くなって,相手の料金表を「書き換える」.確かに,乗車前の料金交渉をしなかった事で何度か高めの料金を請求された事もあるが,安く済む事の方がはるかに多い.多分トータルだとかなり安く上がっていると思う.まぁ,何かと比較する事も出来ないので正確には分からないのだが.
 トゥクトゥク活用法③: たいした情報ではないのだが.傾向として,昼間はトゥクトゥクは捕まりにくい.多分昼間は,大量に走っており料金も安いソンテウに誰もが乗るからだと思われる.夜になるとソンテウの数が減る.深夜になればほとんど走っていない.夜になれば俄然,トゥクトゥクの掻きこみ時になる訳だ.
 昼にトゥクトゥクが少ない理由はいくつかあると思われる.暑いので運ちゃんも仕事するのが嫌な事,ソンテウが多い時間帯は料金が割高なトゥクトゥクは不利である事,夜の方が家の前まで横付けを希望する客(酔っぱらいとか)が多い事(小回りの効くトゥクトゥクが俄然有利になる)などなど.いずれにしても,上に書いたような観光は昼間にする事が多いので,トゥクトゥクがなかなか捕まらなくて苦労する事もある.本当に,昼間は流しのトゥクトゥクが思った以上に少ない.そういうときには,有名どころの観光地やホテル,大きな市場などのそばに行くと良い.ホテルの前や観光地であれば,訳の分かってない外国人観光客を釣り上げようとして沢山のトゥクトゥクが待機している.市場などの近くでは,大きな買い物をしてしまったために少々金がかかっても家の前に直づけしてくれるトゥクトゥクを利用する地元客もいる.そういうところにトゥクトゥクは集まる.
 ソンテウ: あまりトゥクトゥクばかり褒めていてもアレなので,ソンテウの事も書いてみよう.ソンテウでも確実に横付けしてくれる場所がある.寺だ.自分の縄張りの外の事は余り良く知らず,大通り以外への進入は困難を来たし,英語も喋れないし,地図も読めない,とボロクソに書いてしまったソンテウだが,唯一寺院だけは,どこの寺であろうと運ちゃんは場所を把握しているし,確実に横付けにしてくれる.タイ語が多少でも喋れるならば,寺に行くときにはソンテウが使える.地図は読めなくても文字は読める.発音が悪くて通じなければ,タイ語で書いてある寺の名前を見せれば大丈夫だ.もちろん,タイ人の如くタイ語を操れるならば,どこに行くにも問題はないだろう.
 発音: タイ語の話が出たところで,ついでに.チェンマイ旅行ではなく,タイ旅行全般の話になる.
 タイ語は発音に厳しい.同じ音でもアクセント(声調)が違えば全く違う意味になってしまうのは,中国語などと一緒だ.日本語にもいくつかある.端と橋と箸などがその良い例だ.日本だと,少々言い間違えても文脈から意味を汲み取ってもらえるが(橋を使って蕎麦を食うバカは居ない),同じ音があまりに多いタイ語では,どうやらこの補正が難しいらしい.発音を間違えると全く通じなくなる.即ち,ガイドブックの巻末に載っているようなカタカナ発音の日本訛りのタイ語だと,相手にとっては何を言っているやらさっぱり分からない事になるらしい.
 日本語にはいっさい存在しないため,大概の日本人が非常に苦手とする子音のみの発音の問題もある.例えば,タイ語でバンコクのことを「Krungthep」という.この単語には色々詰まっている.
 まず最初に,日本人の大嫌いな「r」の発音がある事.俺の印象では,日本人は「r」が苦手なのではなくて,「L」が発音できない上に「L」と「R」の発音が区別できないのだと思う.いずれにしても,タイ語にも「L」と「R」が存在する.間違うと通じなかったりして,これもなかなか厳しい.
 「ng」の発音もなかなかだ.昔の日本語には「ng」と「n」の差が存在したのだと聞いた事があるが,今は全て「n」だけになっている.「ng」の発音を使っているのは,NHKのアナウンサーなどの一部の正しい発音の教育を受けた者だけだろう.一般人は「n」しか使っていない.さてこの「n」と「ng」の差がタイ語でまたデカイ.間違うと別の意味になる.こんな細かなところに大きな差を付けたりして,風邪を引いて鼻づまりの時はどうするんだ,と思ったが,よくよく考えたら暑い国だった.(注:タイ人も「冬」になるとちゃんと風邪を引く.あしからず)
 これまた日本人が苦手な「th」の発音もある.偉そうに言っている俺もイマイチ良く分かってないのだが,どうやらタイ語には数種類の「th」発音があるらしい.モロに「th」の音や,「t」に近い音など.こいつはなかなかキビシイものがある.
 そして締めくくりが子音の「p」で終わることだ.
 例えば,上の「Krungthep」を日本人が発音すると「クルンテープ」となるが,これをそのまま言っても通じない(日本訛りのタイ語になれているタイ人は聞き取ってくれる).無理矢理にでもカタカナで表記しようとすると,「クルン(グ)テー(プ)」となるが,LとRが区別できないし,アクセントも不明なのでこれもイマイチだ.
 いや,言いたいのはそこじゃない.末尾の「p」が問題なのだ.タイ語全般に言えるのだが,この末尾の子音,「発音はしないが,発音しないと通じない」というワケのわからん音なのだ.かといって日本語的に母音付きで「プ」の音を出すと,タイ人に確実に笑われる.
 例えばチェンマイに「Wat Prasart」という寺がある.カタカナで書けば「ワット プラサート」となるだろう.そのまま発音してみる.確実に笑われるか,もしくは通じない.無理にカタカナで発音を書けば,この寺の名前は「ワッ(ッ) プラサー(ッ)」となる.どちらの語尾の「t」もほとんど発音しない.発音しないが,口の中でその形を作った状態で発音を終わらなければ,通じない.ややこしい話だが.
 タイ人が発音すると,この「無声子音」が英語にも拡大する.即ち,タイ訛りの英語だ.例えば「King」は「キン」としか聞こえないし,「ship」も「シッ」としか聞こえない.日本人も所謂ジャパングリッシュを喋っているのだから,これはお互い様と言うところだが,この知識がない事には例え英語であろうとも意思疎通が出来なくなってしまう.
 タイ人と日本人の言葉の発音の違いは書き始めると長くなるのでまたにして,今回はこの辺で.

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日本の報道管制

 さて,ひさびさの出張更新と洒落込もうか.
 実は今回は出張ではない.個人的に一時帰国している.火曜日の夜便でタイを出て,水曜日の朝に着き,水曜日に買い物とホテルで仕事を少しして,木曜日(今日)朝から運転免許の更新に行って,免許の更新と国際免許の更新を行った.そのあしで成田に向かい,そして今,毎度お決まりのJALラウンジでこれを書いている.個人的な用件だったので会社が航空券を用意してくれるわけもなく,マイルをはたいて航空券を取った.年末に掛けてカミさんを日本に帰してやる分の航空券もマイルで取ったら,さすがにマイルが底をついてきた.まぁ,ビジネスクラスに乗るという贅沢を身につけてしまったのも悪いのだが.
 成田のJALラウンジは,サテライト側よりも本館側の方が好きだと言う事を以前書いた.喫煙室内にソファが置いてあり,座って落ち着けるようになっている.今回搭乗ゲートが久々に本館側だったので,本館のラウンジの喫煙室でこれを書いている.
 何を書こうも何も,最近久々にはらわたの煮えくりかえるような思いをしたのでそれを書く.色んな意味で自分にはどうも出来ない事だったので余計に腹が立った.
 なにを隠そう,例の尖閣諸島の中国漁船の衝突事故の話だ.もともと宇宙語しか喋れないハト脳の阿呆が「友愛」等というお題目を掲げて脳天気な事を言っていた頃から気に入らなかったのだが.
 多分,あのハトは,外国人と話をした事がないのだろう.少し話をして一緒に仕事をしていれば,その国の国民性が分かる.性善説を捨てきれない日本人が,中国人と友達になれるわけがない.どんなに仲良くなったと思っていても,背中を見せた瞬間に後ろから斬りつけるのが,中国人だ.交渉事で,相手の都合をおもんぱかってこちらが一歩引いたとき,向こうも紳士的に一歩引いてみせる(少なくともその建前を見せる)のは,一部西洋人と台湾の本省人くらいのものだ.中国人は,こちらが一歩引けば,必ず一歩踏み込んでくる.外交音痴以前に,あの党の中には外国人と仕事をした事のある経験を持つ人間が少なすぎる.知らな過ぎる.
 事もあろうに,どう考えても財政的に実現不可能な高速道路無料化だの,子供手当だの,目先にぶら下がったニンジンに飛びついた愚か者が日本に大量発生し,この党を衆議院第一党として当選させてしまった.より大きな戦略的目的に使わなければならない大事な予算を,各家庭にばらまくとか,高速道路の維持管理費用に回すだとか,愚の骨頂と批判するレベルを通り越して,本気であきれ果てた.日本国民はどこまでバカになってしまったのだろう,と思った.教育に使うならともかく,各家庭にばらまくなど.親がパチンコ打って消えるに決まっている無駄金だ.
 どこかのブログで見た.「あの」世代は,いくら東大出だとか偉そう言っても,そもそも受験者数が現代に比べて極少だった上に,大学に入ってからも学生闘争に明け暮れてロクに勉強さえしていない,おバカの集まりなのだ,と.
 その意見には大きく共感するものがあるが,ただそれ以上に,その「おバカ」どもの口車に易々と乗せられ騙され,そしてそのおバカどもを元首として据えた日本国民の余りの愚かさ加減にあきれ果てた.民主主義を掲げている以上,政府がどんなバカをやらかそうが,その全ての責任は「その愚か者を選んだ,もっと愚かな国民」にある.それさえも忘れてしまい,政府が何かやると閣僚の責任ばかり問い,愚かさを指摘する.その愚か者を代議士として選んだ自分はもっと愚かだ,と言う事を忘れて.
 そしてその結果がこのていたらくだ.自民党が良いとは言わない.が,少なくともアレよりはマシだった.人気取りのためだけに,後の事も考えずに中国人を逮捕するような事はしなかった.なぜなら,奴らも逮捕したあと何がどうなって,何をどうすればいいかなど考えてもいなかったからだろう.ただ,そこで下手に手を出さないだけの分別があった.民主党にはその分別さえなかった.そして勿論,手を出したあとどうなるかの予測と,どうするかの予定も無かったようだ.そして,国際社会に恥をぶちまけた.
 逮捕するなと言いたい訳じゃない.大いに逮捕してやればいい.なんなら,ボロ漁船の一艘や十艘くらい沈めてやればいい.ただ,そういう強硬な手段を取ったあとの始末と落としどころは前もって何通りもシミュレートしておかねばならない,ということだ.強硬に突っぱねて戦争まで持っていくのか(確かに,どんどん国力を増している中国を叩くなら今をおいて他にない.ただしやるときは相手がほぼ絶滅するまでやらないと,また後々何十年もネチネチ言われる事になる.前回みたいに占領するから失敗する.占領せずにただ破壊して殺戮すればいい),寝技に持ち込んで中国をがんじがらめにするのか(ついでに南シナ海の決着を付ける糸口になって,アジア各国から感謝された事だろう),裏工作で相手をなだめすかしてどこかに落とすのか(昔ながらの古典ワザだ).
 日本政府が,内閣が恥をさらした,と雑誌や新聞は書く.違う.そのバカな政府を選んだ,日本国民が恥をかいたのだ.あんなおバカを代議士として当選させた,そして事もあろうに国家元首として据えた,主権者である国民が笑われているのだ.いつも自分に都合の良い事しか書かない新聞や雑誌は,そうは書かない.全て政治家に責任をなすりつけ,さも自分たちは良い事をしているような顔をする.それが,日本の新聞社だ.
 日本の新聞社は太平洋戦争の頃の事を振り返り,「軍部の暴走」だとか「報道を曲げられた」などと被害者面をする.悪いのは全部軍部で,新聞社も国民もみな被害者だ,と.
 そんなはずはない.軍部がなぜ暴走したか.圧倒的世論が背景にあったからだ.背中を押す世論がなければ,反乱を起こしたところで国民に石を投げられて終わる.世論はなんで強攻策に傾いたか.新聞が煽ったからだ.ではなぜ新聞は国民を煽ったか.そんな記事を書いた方が売れるからだ.要するに,国民がそんな記事を読みたがったからだ.国民が新聞社に望み,新聞社が国民を煽り,そして機を見て軍部がそれに乗った.誰が被害者でもない,皆でやった事だ.
 知っているだろうか.今回,新聞社がまたそれをやった事を.
 ごく最近,渋谷のど真ん中で3000人規模のデモがあった.尖閣問題から始まった一連のゴタゴタ,特にガキのケンカの様な手ばかり打ってくる中国の態度と,逃げばかり打っている日本政府に抗議するデモだったと聞いている.確かに主催者には,かなり右に寄った思想の名前が連なっていた.だが,参加者側のほとんどは,一般の会社員やOLや学生だったと,多くのblogが報じている.海外の新聞やニュース(AFPやCNNなど)もそのように報じている.日本人が「デモ」という言葉から想像するような,暴力的なものではなかったようだった.整然と隊列を組み,シュプレヒコールを繰り返して行進するだけの,ましてやどこかの国の国旗を燃やしたり等もしない,完全に統制されたデモだったようだ.CNNで流れた,数百の大きな日の丸が掲げられ渋谷駅の前を整然と行進していく動画は,壮観でさえあった.
 海外のジャーナリズムはかなり驚いたようだった.何をされても怒らない(と,本気で思われている)日本人が,とうとうキレた,と思われたようだ.日本人がキレると,どんな酷い事になるか,まだ覚えているものも多い.実際,何か起こって日本人がキレると,天皇を頂点として全国民一致団結し,とんでもない軍事国家に豹変する,と本気で恐れている者も多いと聞いている.太平洋戦争の時とは違い,経済力と科学技術を身につけた日本が本気で軍事国家に転向したとき,どんな事になるのかを書いた論文もあるらしい.だから,海外のジャーナリズムは驚いた.
 そして,日本の全てのマスコミは,このデモを意図的に無視した.Googleで検索してみるといい.検索ワードは「尖閣 渋谷 デモ」といったところだろう.ヒットするのはblogばかり.日本のマスコミの記事など,一件もヒットしない.東京のど真ん中で行われた3000人規模のデモが,ニュースにするに足らない事件だとは,とても思えない.全ての新聞社,TV局が独自にそのように判断したとも思えない.どう考えても,どこからか,何らかの力が働いて報道が規制されたとしか思えない.
 この事実には,はらわたが煮えくりかえる,というよりも,恐ろしさを感じた.
 元々都合の良い事ばかり偏重報道していると感じていた日本のマスコミだったが,まさかここまで酷い事になっているとは思わなかった.
 日本に,報道管制は存在する.それも,国民をパニックや暴動から護るための善意の報道管制ではなく,国民を政府の都合の良い方向に誘導するための報道管制が存在する.
 黄色い五つ星を描いた赤い旗の国の報道の盲目さ,それを鵜呑みにして信じている国民の幼さと,報道を支配しようとするその国のあり方をあざ笑っていたが,まさか自分の国もそうであったとは思わなかった.
 良く,2ちゃんねるの住人が使う「情弱」という蔑称がある.情報弱者,の略だ.単独ソースからのニュースを鵜呑みにし,多角的な切り口で物事を見る事のない者をバカにするときにも使われる.
 2ちゃんねるに巣食うヒキコモリどもの罵り合い,とバカにしていたが,まさかこの言葉の意味を本気で考える必要がある日が来るとは思わなかった.
 恐ろしい話だ.

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